親族外の従業員・役員に事業承継する場合の注意点

最近、親族外の従業員または役員に会社を譲りたいというご相談が増えています。会社の株式評価額が高額になっていると、これがネックとなって事業承継が難しい問題が生じます。親族外に事業を承継する場合の問題点とその対処方法について解説していきます。

①M&Aで会社を売却する経営者も多くなっている
後継者がいない場合や親族が後継者にならないため、優秀な技術力や営業能力および経営力を持っている社内の役員等に会社経営を任せて、取引先やお客様に引き続き商品やサービスを提供し続けたいという要望が多く寄せられるようになってきました。
引き継ぐ側の役員等もやりがいと意欲をもって、同僚や後輩と共に取引先やお客様に今まで通りに喜んでもらいたいという使命感に終えておられます。
収益力がしっかりある会社を第三者に売却するM&Aも多く見受けられます。買い取った側が従来以上に働きやすい環境を整え、製品やサービスも向上させて会社が発展する例にもありますが、逆に買い取った側が必要な不動産や経営資源だけを取り込み、従業員がないがしろにされるといった例もあります。こうした場合、売却したオーナーは資金が手に入っていいのですが、従業員や役員は不幸です。その点がM&Aの難しいところと言えます。

②高額の株式を役員等に贈与すると贈与税が課税される
現経営者から後継者である親族外の役員等に経営を引き継ぐ際に問題になるのが、株式の引き渡しです。複数の役員等が引き継ぐ場合には、誰が後継の代表取締役になるのかの問題を解決し、その上で持分の割合を協議して決めることになります。単独で会社を引き継ぐものを決めた場合には、その人が全株を引き継ぐことになります。
その場合、先代経営者から後継者に株式を贈与する場合、時価で行う事が原則です。贈与の場合には贈与税が課税されるので、相続税の財産評価基本通達による評価額となります。
株式を贈与する場合は、先代経営者には税金は掛かりませんが、株式を譲り受けた後継者には贈与税が掛かります。1株500円、発行済株式数2万株、資本金1,000万円のかいしゃの株式が1株1万円になっている場合、評価額の総額2億円になります。そのまま贈与すれば1億539万5千円の贈与税が課税されます。これは現実的ではありません。

③後継経営者が株式を購入すると先代経営者に譲渡所得税が課税される
所得税法による時価である3億円で後継者が株式を購入すると、譲渡した先代経営者に所得税・住民税が課税されます。この場合には(15,000円-500円)×2万株×20.315%=58,913,500円が課税されます。通常はそんな資金はありませんし、銀行から借入までして購入するのは非現実的です。1万株を贈与、1万株を売買ということも考えられますがこれも非現実的でしょう。

④贈与税の納税猶予の適用を受けると相続税に影響が及ぶ
非上場株式の贈与税の納税猶予という制度があり、この適用を受ける方法もあります。平成30年度税制改正により、全株贈与しても全体の贈与税が猶予される見込みですので、1億539万5千円の贈与税の納税は不要です。問題は贈与した先代経営者が死亡した際の相続税の計算時に、2億円の株式評価額を相続財産に加算して相続税が掛かる点です。贈与を受けた親族外の経営者にも2億円の評価額に対応する相続税が掛かることになりますが、これは平成30年度税制改革後には全額猶予される見込みです。

⑤評価額を下げてから実行することが重要
総額2億円にもなる株式を親族外の後継者に譲ることは非常に困難であることがお分かりいただけたでしょう。そこで重要なのが事前のひょうかを引下げておくこです。よく行われるのが、先代経営者がたいにんする際に退職金を支払うことです。確かにそうすれば評価額は下がるのですが、一方で会社の運転資金が大幅に減少し、場合によっては資金繰りが困難になることも考えられます。収益力の高い企業の場合には、金融機関から融資を受け、その後の収益で返済することが可能な場合もあるでしょう。この辺りは後継経営者の覚悟が問われるところでしょう。

⑥評価額を下げて自社株承継が成功した事例
株式会社ヤマイチプライメタル
3年前まで現社長の母親も同社株を一部保有していた。その承継を考えた際、2代目が父から事業承継した時より評価額が上昇しており、譲渡すると多額の税金が掛かってしまうことが分かった。何か良い方法はないかと顧問税理士に相談。母親に退職金を支払い、株価を下げ後継予定の長男に株を譲渡したことから、同社の2度目の事業継承が始まった。
後継者は入社後、自社で現場経験を積んだ上で、3年間取引先の「後継者プログラム」という無給で取引先の自社製品を扱う業務に従事し、同世代社員との人間関係の構築や現場作業者として自社製品の後工程を学ぶことができた。
自社に戻ってからはその経験を活かして、道具の使い方一つから見直し、学んできたチェックシートを自社に合わせて作成・運用している。「人に信頼される会社に」という祖父・父から継いだ信念を持ち、事業拡大を志す後継者は、自身で面接を行い今後共に働く人材の採用等にも力を入れている。