含み損のある資産の会社分割の対策

そろそろ事業を承継したいと考えている以下の事例の会社には、本業に関わる事業用不動産は含み益があるが、賃貸不動産には大きな含み損があります。現状では株式評価額にどんな影響があるのか、また株式評価額を引き下げる何か良い対策はないのか考えてみましょう。
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▼A不動産(本業用)
 相続税評価額38億円(取得価額20億円+含み益18億円)
▼B不動産(投資物件)
 相続税評価額10億円(取得価額25億円-含み益15億円)
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①含み益と含み損を分解する
長年に渡ってじぎょうを行っている会社では、本業に必要な土地や建物を長期保有していることが多く、含み益のある場合が多いでしょう。また地価高騰期に都心の不動産に投資したような場合には大きな含み損が生じていることもあります。上記事例はまさにこの事例に当てはまります。
この事例は相続税評価を算出する場合には中会社に該当し、純資産価額の占める割合も大きいので、今回はこの現状を踏まえた上で、純資産価額を引き下げる方法をご紹介します。
今回の場合、含み損が大きい不動産を分離することで、バランスシートが健全になるとともに自社株式の純資産価額を引き下げることが可能になります。
会社分割を行う際には、適格会社分割になるような分割やグループ法人税制を活用して、税制上の優遇措置の適用をしっかり受け、税金負担を考慮した対策を考える必要があります。

②含み益に対する法人税等が控除できる
取引相場のない株式評価における純資産価額の評価では、相続税評価額による純資産価額と帳簿価額による純資産価額の差額(含み益)の37%を純資産価額から控除することができます。しかし、含み損のある資産と含み損のある資産の両方がある場合は、これらの含み益と含み損が相殺され、結果として含み益が減少し、含み益に対する法人税相当額が控除されす、高い株式評価額になっています。
 ・A不動産20億円(相続税評価額38億円)
 ・B不動産25億円(相続税評価額10億円)
 ・その他の資産40億円(相続税評価額40億円)
 合計85億円(相続税評価額88億円)
 ・負債65億円
 ・純資産20億円
 合計85億円
そこで、この場合は「含み益に対する法人税等相当額の控除」を最大限に利用するため、含み損のある資産を分離するか、もしくは思い切って売却します。
今回の「純資産価額」は以下のように計算します。
 ①純資産価額(相続税評価額)38+10+40-65=23億円
 ②純資産価額(帳簿価額)20+25+40-65=20億円
①相続税評価額から②帳簿価額を差し引いた含み益から37%の法人税相当額を控除した金額が、純資産価額となります。よって株式評価額の総額は以下の通りとなります。
 相続税評価額23億円ー(相続税評価額23億円ー帳簿価額20億円)×37%=21.89億円

③含み損のある不動産を会社分割する
含み損の大きい本業とは関係のない資産を分離しておくと、業績の良い資産内容の健全な会社となるので、事業承継に当たっては歓迎される方法です。
そこで、今回の事例はB不動産とその他の資産の20億円の資産および負債26億円を分割型新設分割で会社分割します。
▼既存会社(本業継続)
 その他の資産20億円
 A不動産20億円
 A不動産含み益18億円
 負債39億円
 薄価純資産1億円
 ※相続税評価純資産12.34億円
 ※37%控除
▼新設会社(不動産投資)
 その他の資産20億円
 B不動産25億円
 負債26億円
 薄価純資産19億円
 ※相続税評価純資産4億円
 ※B不動産含み損15億円

④会社分割により株式評価額が下がる
純資産価額の計算上、資産の含み益に対して37%控除ができますが、含み損があれば相殺され控除額が大きく減少します。含み損のある資産を本体から分離することにより、本体の資産の含み益に対して、完全に37%控除することができますので、株式評価価額が大きく下がります。
▼A不動産(本業用)
 純資産価額(相続税評価額)=(20+18)+20-39=19億円
 純資産価額(帳簿価額)=20+20-39=1億円
 純資産評価額=19億円-(19億円-1億円)×37%=12.34億円
▼B不動産(投資物件)
 純資産価額(相続税評価額)=(25-15)+20-26=4億円
 純資産価額(帳簿価額)=25+20-26=19億円
 純資産評価額=4億円-(4億円-19億円)×37%=4億円
▼A不動産+B不動産
 合計=16.34億円
 21.89億円から5.55億円減!
グループ法人税制を適用して完全関係会社に売却しても、この効果は同様です。
全ての場合においてこのような効果が出るとは言えませんが、会社の全資産を一度無直してみて、この方法が活用できるか検討されてはいかがでしょうか。